『やりすぎ都市伝説』フリーメーソン&イルミナティ陰謀論に捏造?
謎の秘密組織が、世界の政
治・
経済を裏で操っている! そんな
「陰謀論」の代表選手といえ
ば、
フリーメーソンになるだろう。その
勢力は世界中に広がっていると
さ
れ、もちろん日本も例外ではな
い。
たとえば、六本木ヒルズやミッド
タウンを所有し、最近、虎ノ門ヒ
ルズをつくって話題になっている
森
ビルには、かなり前からメーソン
説
がささやかれているし、スターバッ
クスや三菱、さらには東京スカイ
ツリーにも、「ピラミッドと目」という
彼らのマークとの類似性が語ら
れ
ている。
そんなフリーメーソン陰謀説を
最近の若者にしらしめたのは、
芸
人のセキルバーグこと関暁夫だ。
先日も『ウソかホントかわからな
い
やりすぎ都市伝説スペシャル
2014夏』(テレビ東京)でフリー
メーソンを取り上げ、「人類を洗
脳支配しようとしている闇の勢
力
が存在するのです」と吠えてい
た。
都市伝説で有名になった関だ
が、すっかり陰謀論者へと活動
を
シフトしてしまったようだ。ベストセ
ラー『関暁夫の都市伝説』(竹
書房)でもシリーズが進むにつ
れ、次々とフリーメーソンの陰謀
を暴きだそうとしている。関の言う
とおり、世界は彼らの手の上で
転
がされているのだろうか?
そもそもフリーメーソン陰謀説
は
歴史が古く、フランス革命までも
が彼らの仕業でないかとされてい
た。日本でも20世紀初頭からユ
ダヤ陰謀説とセットになって囁か
れていた噂である。戦後、この説
が大きく知られるようになったの
は、1980年代からのオカルト・陰
謀論ブームからだろう。
早い時期のメーソン本として
は、赤間剛『フリーメーソンの秘
密―世界最大の結社の真実』
(1983年・三一書房)がある。
メーソン日本支部へのインタ
ビュー取材を行い、メーソンとは
何かを紹介するといった穏当な
内容で、陰謀の暴露を期待す
る
と肩透かしを食らうかもしれな
い。
しかしその後、一連のメーソン
本を刊行するごとに、赤間はフ
リーメーソンへの危機感を募らせ
ていく。『フリーメーソン 世界支
配
の戦略―「米ソ合意」のあとに
来
るもの』(88年・徳間書店)で
も、
最終章でいきなり「ヨハネの黙示
録」について述べ、世界終末を
予想するという暗い結末を提示
している。
これは当時の空気の反映でも
あった。陰謀論と終末論の組み
合わせは、80年代日本オカルト
のトレンドだったのだ。それが最
悪
の形で発現してしまったのが、オ
ウ
ム真理教である。麻原彰晃らは
フリーメーソンを代表とする“闇の
世界政府”なる仮想敵を設定
し、それに対抗しなければという
妄想を育んでいった。結果とし
て、一連の殺人やテロが起きた
の
は周知の通りだ。
確かに過去、フリーメーソンに多
く
の政治家が参加していたのは事
実だ。日本関連で最も有名な
の
は、鳩山一郎・元首相とGHQ
司令官ダグラス・マッカーサーだろ
う。だが、フリーメーソンとはそもそ
も名士会のようなもの。各ロッジ
(支部)も系統が複雑に分かれ
ており、上意下達の計画を一致
して行える蟻のような組織では
な
い。「フリーメーソンが世界を動か
している」という考え方は逆さま
で、世界を動かす政治家が会
員
になることが(昔は)チラホラあっ
た、という事に過ぎないのだ。
オウム事件は、日本におけるオ
カルト・陰謀論のあり方にショック
を与えた。ノンフィクション作家・
岩上安身は、麻原彰晃とフリー
メーソン陰謀説との関係につい
て
「『バカらしい』とただ排除するだ
け
では、もはやすまないはずだ。事
実をきちんと検証し、妄想や誇
張されたデマからはっきり峻別す
べき」として、サリン事件の数ヶ月
後、フリーメーソン日本ロッジ広
報担当・片桐三郎へのインタ
ビューを行っている(『ベールを脱
いだ日本のフリーメーソンたち』
雑
誌「宝島30」95年9月号掲
載)。
その中で片桐氏は「僕個人
は、伝統は守りつつも不必要に
世間の誤解を受けるような秘密
主義は変えていった方がいいと
思っています」と発言。フリーメー
ソンの秘密主義を客観視しつ
つ、世間にはびこる陰謀論との
ズ
レを印象づけた。この後、フリー
メーソン陰謀説はほとんど誰にも
相手にされなくなり、一気に下
火
となってしまった。
ところが2000年代中頃にな
り、
冒頭であげた関暁夫が、終わっ
たはずの陰謀説を驚くほど無邪
気に復活させたのだ。しかも、関
本人はネタではなく、最近のイル
ミナティ陰謀説とも絡めつつ、大
真面目にフリーメーソンを糾弾し
ている節がある。
今のところの最新刊『Mr.都市
伝説 関暁夫の都市伝説4』
(12
年・竹書房)では、スタバ本社ビ
ル、三菱のロゴ、真上から見た
東
京スカイツリーにまで「ピラミッドと
目」を見出し、フリーメーソン=イ
ルミナティによる世界支配に対す
る危機感を煽っている。そのコジ
ツケぶりは、苦笑を通り越して病
的にすら思えてくるのだが……。
全体の3分の1を占めるイラスト
や
オマケ絵本(どちらも関本人の
筆)のサイケっぷりも、ちょっと不
安
定な精神状態を心配させるほど
だ。あらゆるものにサインを見出
し、世界を敵味方に単純化する
陰謀論の、歪んだ不安を象徴し
ているようにも思えてくる。
また、先日のテレビ番組『やり
す
ぎ都市伝説スペシャル』で
は、「秘密結社イルミナティ発祥
の地」ドイツに出かけ、フリーメー
ソンとイルミナティの関係を追
及。
しかしまずイルミナティの説明段
階から「ナポレオンが起こしたフラ
ンス革命に影響を与えている」と
いう腰くだけなナレーションが流れ
る始末。陰謀がどうのという以前
に「ナポレオンがフランス革命を
起
こした」と中学レベルの歴史すら
間違えているのはさすがにマズい
だろう……。
そもそもイルミナティとは、1777
年からたった9年間だけ存在した
組織で、もちろん現存はしてい
な
い。70年代のニューエイジ系ポッ
プ・カルチャー小説「イルミナティ3
部作」(『ピラミッドからのぞく目』
『黄金の林檎』『リヴァイアサン襲
来』すべて集英社文庫)がカルト
的人気を博した影響から、その
後の陰謀論でとりあげられるよう
になっただけだ(著者のロバート・
A・ウィルスンは神秘主義者とは
いえ、単純なビリーバーでもな
い。
関などの陰謀論者は、彼の著
作
を一冊でも読んでいるのだろう
か)。
『やりすぎ都市伝説』では現地フ
リーメーソンのグランドマスター
(支
部長のようなもの)や歴史研究
者にインタビューしていたが、かな
りアンフェアな演出がなされてい
た
のは否めない。両人物とも明ら
か
に歴史的意味で18世紀のイル
ミ
ナティ組織の説明をしているの
に、あたかも「今現在イルミナティ
が存在している」と語っているよう
に編集している。鬼の首をとった
かのごとく「フリーメーソンが当たり
前のようにイルミナティの存在を
認めた!」と放送しているが、そ
りゃ過去に存在したのは当たり
前
の話だろうよ……。
また、イルミナティ創始者ヴァイス
ハウプトがメーソン会員だったこと
(当時の状況として別に不自然
ではない)について、グランドマス
ターが「別に興味がない」と発言
したのを「明らかに怪しい」と糾弾
していたり、まるで騙し討ちのよう
な誘導演出。いくらバラエティ番
組はプロレス的に楽しむものとは
いえ、これは明らかに「やりすぎ」
だ。海外ロケだからバレないと
思っ
たのだろうが、番組を観たら二人
とも激怒するのではないか。
『やりすぎ都市伝説』自体は好
きな番組なので、これはかなり残
念だった。変に陰謀論を突き詰
めようとすれば、ほぼ必ず取材
倫
理に触れるような事態になってし
まう。都市伝説を気楽にワイワイ
紹介していた頃に戻ってほしいも
のだ。
もっとも今では『やりすぎ都市
伝
説』くらいしか、関の陰謀論をとり
あげてない状況にはなってい
る。『関暁夫の都市伝説』もここ
2年ほどは出版されていない。さ
すがにフリーメーソンにまつわる噂
は、トンデモ陰謀本ですら扱わ
な
くなったようだ。しかし、陰謀論そ
れ自体が無くなった訳ではない。
東日本大震災後、また様々な
陰謀についての噂が、かつての
勢
いと同じく、かつ80年代のそれと
は違ったムーブメントとして広まっ
ていたりもする。その辺りの話
は、
また場を改めて書いてみよう。
(吉田悠軌)
引用 http://lite-
ra.com/2014/07/post-291.h
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画像 『Mr.都市伝説 関暁夫
の
都市伝説4』(竹書房)
音楽
http://musmus.main.jp/musi
c_img4.html